断崖絶壁が織りなす秘境、三淵渓谷。長井百秋湖(長井ダム)にあるこの場所は、ボートでしか見ることができない神秘的な空間です。1時間かけてボートで巡るこの旅は、パワースポットとしても人気を集めています。
かつてこの地帯は海で覆われており、日本の百名山にも数えられる朝日連邦も島として海上に顔を出していたと言われています。火山からなる多くの山々とは異なり、花崗岩から形成されるこの地帯の岩質は極めて硬いです。このことが、不純物の少ない超軟水と呼ばれる奇跡の水を創り出しました。
良質な水を求めて人々が集まり、この地帯には集落が生まれました。数千万年の時を経て、緩やかに、時には激しい大地の動きにより岩が侵食され、豪雪地帯の気候条件が「三淵渓谷」というまるで竜の口が開いたような稀有の地形を創り出しました。この神秘的な空気に満ちた三淵の地は、修験の場として栄えていきました。
現在も地域の伝統芸能として受け継がれる黒獅子舞いの「黒」は、この修験道から来ているとされています。全ての願いを聞き届けてくれる龍の化身(龍神)として村を巡り、厄を祓い豊穣を祈願する祭りのルーツは、この三淵という断崖絶壁の渓谷にあります。
訪れた人々は皆、三淵渓谷の独特で幻想的な空気に圧倒されます。ボートで断崖絶壁の間を通り抜けながら、静かに頭を垂れて参拝する「三淵渓谷通り抜け参拝」は、まるで神の参道を通るようであり、母の産道を通るかのような生まれ変わりの旅です。
長井百秋湖の奥地にある三淵渓谷は、カヌーフィールドとしても知られています。片道約1時間、V字渓谷の間を漕ぎ続けると、目の前に高さ50メートルを超える断崖絶壁が現れます。自然や神への祈りを捧げ、神聖な領域に入ると、真夏でもひんやりとした空気に包まれます。約250メートルにわたって続く三淵渓谷は、伝説も残るパワースポットです。
長井市の西部にそびえる朝日山地は、地下の冷えたマグマが地殻変動で隆起して生まれた古い山です。主な岩質は花崗岩で、風化浸食によって三淵渓谷が形成されました。通常、谷の断面は傾斜がついたV字型ですが、硬い岩質のため崖が垂直に切り立ち、断面は函状になっています。また、河川も直角に曲がる雷光型の形状で、大量の雨が降ると荒々しい流れに変わる暴れ川です。このため「三淵には龍神が住む」と信じられてきました。
三淵渓谷を源流とする野川は、長井市の西から東へと流れて最上川に合流します。古くから山を削り、土砂を運び、人が住む大地を作った川です。三淵渓谷の花崗岩は花崗閃緑岩で、成分が水に溶け出しにくいため、流れる水は軟水です。特に長井の地下水は超軟水として知られています。
龍神が住む三淵は、多くの修験者が集まる場所でした。三階滝を経て三淵渓谷を目指し、尾根伝いに湯殿山へ向かう出発点として、山岳信仰の聖域でした。度々水害に悩まされてきた長井の町場では、聖域への畏怖の念から水神を祀る石碑が建てられました。治水を祈願するために、延暦21年(801年)に總宮神社が創建されました。ここには、悲哀の姫の伝説と黒い獅子の舞いが伝承されています。